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西暦2000年──ミレニアムと騒がれた20世紀最後の年。
来年からはいよいよ21世紀が始まるとあって、2000年のクリスマスシーズンも、世間は昨年に引き続き盛り上がっているようだった。
しかし、高校三年生になった私たちにとって、この年の冬は、非常にストレスフルな季節だった。
年が明ければ、本格的な戦争が始まる。
大学受験は、過激化した進学競争ゆえに「受験戦争」と呼ばれていた。
ピーク時に比べれば随分マシだと、我が桜王子学園の教師たちは言っているが、競争率が下がっても、私たちが哀れな「受験戦士」であることには変わりない。
そのため、高校生らしい欲求を頭の片隅に封殺しながら、受験生たちは日々勉強に励むのだった。
12月にもなると、私立大学の推薦入試合格発表があったり、センター試験の受験票が手元に届いたりと、戦士たちは日に日に緊張感を募らせてゆく。
1月中旬に行われるセンター試験、その後の二次試験や私立大学の入試試験。
戦争が迫った戦士たちには、クリスマスも正月も無い。
何度も繰り返される模試の判定に一喜一憂し、冬休みは予備校に通い、最後の追い込みをかけるべく大晦日・正月特別合宿に参加したりする。
少々異常だと思わないでもないが、進学校に通う生徒にとっては当然のことらしい。
だが、しかし──こうして積み重なったストレスが、突然、思わぬ形で爆発する。
高校生の他愛のない気晴らしが、あろうことかこの私に、とんでもない災厄を運んでくることになった。
「──おい、一条。この後予定無いなら、お前も参加しない?」
クリスマス直前のある日のこと、放課後の教室に残っていた数人の男子が、ぼんやりしていた私に声をかけてきた。
「……参加って、何?」
訝しく思いながら聞き返すと、彼らは奇妙なニヤニヤ笑いを浮かべながら、揃って手招きをし始めた。
「クジだよ、クジ。帰りにコンビニ寄るだけだから、そんなに時間かからねえし」
──何だか怪しい。
彼らの反応を見て、私は思わずそう思った。
しかし、「コンビニに立ち寄るくらいなら、まあ良いか」とすぐに考え直し、私はそのクジとやらに参加してみることにした。
受験の事でみんながピリピリしている中、ちょっとした遊びに加わってみるのも悪くないかもしれない。
彼らはクラスメイトではあったが、私とはあまり交流の無い華やかなグループだった。
成績優秀で、ルックスも良い、いわゆるモテ組。
成績もルックスもぱっとしない私から見ると、彼らはまさにエリート集団だと言えた。
彼らにとっては単なる気晴らしなのかもしれないが、引っ込み思案で、地味な私をわざわざ誘ってくれたのだ。
高校生活も残り僅かになっているし、これを機会に話してみようか──。
肩を寄せ合っているグループの輪に、私がのこのこ近づいていくと、どうやらこのゲームの発案者らしい桐谷(きりや)がクジを差し出してきた。
若者向けファッション雑誌のモデルのような外見にも関わらず、クラスで一番の秀才である彼は、東大だか京大を目指していたはずだ。
そんな超難関大学にチャレンジしようとしてるのに、こんな所で遊んでいても良いのだろうか?
ルーズリーフを裂いて三つ折りにした手作りのクジをじっと見つめ、私はそんな事を考えてしまった。
「じゃあ、特別に……お前から引けよ、一条」
「──え!? いいよ、僕、最後で」
その言葉に驚いた私は、激しく遠慮して首を横に振っていた。
クジ運が悪い私が一番に引いたら、間違いなく「ハズレ」を引いてしまうだろう。
だいたい、昔から「残り物には福がある」と言うではないか。
そもそも、私の何が「特別」なのか判らない──桐谷の言葉は意味不明だった。
ところがその場にいた他の男どもは、「いいから、いいから」と笑いながらぐるりと私を取り囲み、すぐに「早く引けよ」と急かし始める。
何とも気持ち悪い。
興奮して目をギラギラさせている男子の円陣の中で、私は参加したことを早くも後悔し始めていた。
とは言え、気の弱い私が、その円陣を強行突破することなどできるはずもない。
嫌な予感を感じながら、私が渋々クジを選ぶと、あっという間に横から手が伸びてきて、その紙片を取り上げられてしまった。
「──大当たり〜ッ!!」
私からクジを奪いとったそいつは、紙を開いて大声を上げた。
(……当たり? ハズレの間違いじゃないのか?)
当たりクジを引いたことに私が驚いていると、秀才桐谷君がニヤリと笑った。
「やったな、一条。お前が俺たちの『勇者』だ」
それは、思わず首を傾げてしまう言葉だった。
「……勇者? どういうこと?」
怪訝な顔をして訊ねると、桐谷はまるで逃亡を阻止するかのように、私の肩にがっしりと腕を回してきた。
「深い事は考えなくていいから。とりあえず、行こうぜ」
そう言って、桐谷は私を強引に教室から連れ出した。
机に残されていた私の鞄は、他のヤツらがお節介にも運んでくる。
その時になってようやく、私は彼らにハメられたのではないかと思い始めていた。
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